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東京地方裁判所 昭和42年(手ワ)254号 判決 1967年4月12日

理由

1  《証拠》によれば、訴外土屋崇が昭和三八年中に存在した新旧二個の新日本産業株式会社の事業に関連し、「野村昭司」という被告の氏名にまぎらわしい氏名を使用して原告主張の本件約束手形の振出行為をしたことが認められる。

2  そして、被告は、右訴外人土屋崇が被告の別名として「野村昭司」の代名を用い、被告に代つて前記新旧の新日本産業株式会社の事業に関連する手形振出行為をすることを許容しており、本件手形はその振出行為に属するものと認められる。すなわち、

(1)  《証拠》によれば、被告は昭和三八年八月頃倒産した旧の新日本産業株式会社の経理係としてその資金面に関与しており、その倒産後は新日本宣伝株式会社及び新たな新日本産業株式会社の代表取締役にも就任し、その前後を通じて、会社の異同、資格の別はあつたが、終始旧の新日本産業株式会社の事業と同様内容の事業を実際上継続し、資金操作、旧債の整理等に関し、右三会社の実権者土屋崇に協力して来たこと、現に雑貨ブローカーをしており、金融操作、債権債務の整理等についての経験者でもあることなどが認められ、

(2)  原告本人尋問の結果によれば、原告が右新しい新日本産業株式会社の事務所を訪ねてその一般社員に対し本件手形についてその割引前に照会した際、右社員は「野村昭司」が被告である旨を答えたこと、本件手形の不渡後、原告が同じく右会社事務所に訪ね被告に面会した際、被告が本件手形を振り出したことを認めていたことなどが認められ、

(3)  被告本人尋問の結果によれば、被告は右(2)のように原告と面談したことを否定し、原告本人尋問の結果とその供述内容の重要部分に一致しないところがあるけれども、当法廷における原告本人の紳士的な供述態度、被告の陳述態度及び体格容ぼう等からして原告が前記のとおり面談した相手方の人違いをしているとは思われず、その面談内容を作為しているとも思われないので、原告の供述内容により多くの信をおくことができ、これに反する部分の被告の供述を信じ得ない。

以上(1)ないし(3)の事情と前記1の事実とを綜合すれば、少くとも、被告は訴外土屋崇が、被告の別名として「野村昭司」の氏名を用い本件手形を含む被告の手形振出行為を代行することを知りながら、これを許容していたと認めるのが相当であるからである。

3  そうすれば、たとえ「野村昭司」が被告のみずから使用する別名でなくとも、本件手形における振出名義人の記名捺印が被告自身によるものでなくとも、被告はその振出責任を負うべきであり、その帰責事由は原告の請求原因に当然に含まれると解される。

4  以上の判断事項以外の原告主張請求原因事実は、原告の当法廷において所持する本件手形及び原告本人尋問の結果によつて認められ、それらの事実によれば、原告の本訴請求は正当であるから、これを認容する。

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